
読了:約10分(5814字)
公開:2021-01/07
更新:2021-01/14 部分的に加筆・修正
応用言語学者が勧める英会話上達のコツとは?
【Disclaimer】この記事にある「チャンク」「決まり文句」「定型表現」という用語は、厳密には違うかもしれないですが、とりあえず同じものだと考えて下さい。
会話の約70%はチャンク(決まり文句)
第二言語習得を専門にしておられる新多了(にった・りょう)教授と中田達也教授が、著書でチャンク(決まり文句)について興味深い研究を紹介されていました。ボキャブラリーとは、1つひとつの「単語」だけではありません。複数の語から成る「定型表現」(formulaic sequences)もボキャブラリーの一種です。……一般的に定型表現は、ネイティブスピーカーの頭の中でひとつのかたまり(「チャンク」とも言います)として記憶されています。(P. 83)
ネイティブスピーカーにとって定型表現は、よく使っている言葉、どこかで聴いたことがある言葉です。(P. 137)
定型表現は、英語のネイティブスピーカーが日常的に使っているものばかり。英語で書かれたものの約50%、会話の約70%は定型表現であると示す研究もあります。(P. 84)「英語の学び方」入門
新多 了
研究社
2019-08/22
Amazonで見る
楽天で見る
Q3 どうすれば英語をスラスラ話せるようになりますか?
A. チャンク (chunks) 表現を増やしましょう。
英語で話すことはできても、単語や文法を考えながらなのでゆっくりとしか話せないない、あるいはつっかえてばかりいると悩んでいる方もいるでしょう。そこで活用したいのがチャンクです。
チャンクとは「短い表現のまとまり」のことです。例えば I wonder if you wouldn't mind ... (もしよろしければ~していただけませんか) はこのままの形でよく使われます。
文法規則をもとに単語を1つ1つ並べていっても話すことは可能ですが、効率が悪く流暢さが失われます。それよりは丸暗記してスラっと言う方が良いでしょう。
……母語話者の発話の6割から8割がチャンクによって構成されており (Altenberg, 1998; Eman & Warren, 2000)、チャンクを覚えることは重要です。(P. 117)英語学習の科学
中田 達也・鈴木 祐一・他9名
研究社
2022-04/25
Amazonで見る
楽天で見る
実際、チャンク(決まり文句)を「よく使っている言葉、どこかで聴いたことがある言葉」と定義するのであれば、たいていの会話はチャンクの組み合わせでできているなと。
続いて、このブログのあちこちでご紹介している、応用言語学者の白井恭弘教授の著書からの抜粋。
例文暗記の効用
……実は日常言語のかなりの部分が決まり文句で構成されている、という研究もあります。
第二言語のデータベースを増やし、自然な表現を身につけるために、特に母語と第二言語の距離が遠い場合は、よく使う表現や、例文、ダイアローグなどを暗記することが効果的でしょう。(P. 167)
博多華丸大吉さんの漫才で「子供とキュウリは成長が早い」みたいな言い回しがあって面白いなと思ったんですよ。
それで「Kids grow as fast as cucumbers.」と英訳して、HiNativeで添削してもらったら、USネイティブに「grow like weeds(雑草のように成長する)がよく使われるよ」と教わりました。
Netspeakで調べると「grow like weeds」は5,400ヒット(2022年現在)したので、確かによく使われているみたいだなと(・∀・)←疑り深い
つまり、ネイティブにとっては「grow like weeds」が決まり文句なので、こっちを使ったほうが通じやすい、というわけです。
上級者=チャンクのスペシャリスト

流暢に話せる学習者は、多くのチャンクを使用できることも研究から分かっています。Tavakoli & Uchihara (2020) の研究では、チャンクを多く使用する学習者ほど話すスピードが速く、言い直しをする回数が少ないことがわかりました。
さらに、チャンクを多く使用する学習者ほど文の途中でポーズする回数が少なく、文の区切りでは多くポーズしました。これは母語話者にも見られる傾向です。
Wood (2010) では、チャンクの使用量の増加に伴って、発話中にポーズする回数が減り、ポーズ間の語数の増加が見られました。
Taguchi (2007) の研究では、チャンクを増やすことによって、会話のトピックや追加質問の数が増えたりするなど、スピーキングの質が上がることが実証されています。(P. 117~118)
【出典】英語学習の科学
お次は、児童英語教育、第二言語習得を研究しておられる居村啓子准教授の研究から。
Field(2008)は,初級の第二言語使用と上級の第二言語使用との違いは出力の際の自動化 automaticity の点にあると述べている。Lewis(1993)は‘Language consists of grammaticalised lexis, not lexicalised grammar’(p.vi)と述べ、第二言語はかたまり chunk で教えるべきであると主張した。
実際,近年ではチャンクが言語の習得、そしてその使用において大きな役割を果たしているといわれている(Wray, 2002)。またそれは EFL(English as a Foreign Language)teaching に効果をもたらす(Nattinger, 1992)ともいわれている。
【出典】子どものゲシュタルト的認知とチャンクの習得(PDF)
「自動化」というのは、第二言語習得の本によく出てくる用語なのですが、最初は意識しないと出てこなかった言葉が、英会話や英語で独り言などを続けているうちに、徐々にその言葉が無意識に自動的に出てくるようになることを指します。
「Thank you.」がまさにそうですよね。いちいち日→英に訳さなくても自動的に出てきます。
「初級の第二言語使用と上級の第二言語使用との違いは出力の際の自動化の点にある」というのは、上級者ほど多くの言葉に触れてきているため、スピーキングでも自動的に出てくるチャンク(決まり文句)の割合が多いという意味だと思います。
(チェスの)名人の短期記憶(数字など)を思いだす能力は、ほかの人とほとんど変わらない。しかし、チェス盤を見たときに、有益なチャンクを初心者よりも多く読みとる。(P. 267)
「チャンク」とは心理学用語で「情報のまとまり」を意味する。人は、自分が持つ知識にもとづいて、学習したことから、意味のあるまとまりを見つけて記憶に保存する。そのまとまりが「チャンク」だ。(P. 266)
強いチェスプレイヤーが素晴らしい記憶力を発揮するのは、駒の位置を大きなチャンクに組み込んで記憶することができるからである。その大きなチャンクはどれも、よく知っている駒の並びで構成される(P. 267)
脳は、基準となるものや特徴を保存すると、それらを使ってできるだけ大きなチャンク(情報のまとまり)を読み取ろうとするのだ。(P. 275~276)
例えば、ある程度英語に慣れてくると、リスニングで「not enough」と聞こえてきたときに「not」と「enough」という個々の単語で処理するというよりは、「not enough(足りない、十分でない)」という1つのチャンクで認識できるようになります。中~上級者になれば、さらに「just」が足された、「just not enough(全く足りない)」も1つのチャンクになります。
単語単位ではなく、チャンク単位で処理できるようになるので、速いスピードの英語を聞き取れる、速いスピードで読める、速いスピードで(=流暢に)話せるようになるわけです。
というわけで、第二言語においてはチャンク(決まり文句)を覚えていくことが大事だというのは応用言語学者の方々の共通認識と考えていいかなと。
チャンクで会話は楽になる
引き続き、新多了教授の書籍から。(定型表現は)使い慣れた表現ですから、すぐに口をついて出てきます。聴き手にとってもよく知っている表現なので、聴いた瞬間すぐに意味が思い浮かびます。
つまり、定型表現の使用は、話し手にも聴き手にも負荷がかからず楽なのです。私たちが英語を学習するときも、よく使われる定型表現を覚えておくと、英語での会話がぐっと楽になります。(P. 84)
そうした定番の表現を組み合わせて使うことで、コミュニケーションを円滑に進めることができます。すでに使い慣れた表現だからこそ、聴き手も瞬時にその言葉の意味を理解することができます。(P.137)
【出典】英語の学び方入門
「会話の約70%は定型表現である」
「定型表現の使用は、話し手にも聴き手にも負荷がかからず楽」
「よく使われる定型表現を覚えておくと、英語での会話がぐっと楽になる」
ということから、
→ 英会話で話せる(=通じる)割合&聞き取れる割合を効率的に増やせる
→ 英会話上達の近道になる
と言えるはずです。
僕自身、2013年にオンライン英会話を始めた頃は、こういったことは知りませんでした。
ですが、普段よく出会うけど、自分がまだ使えていない文法・構文・フレーズをつぶしていく(=アクティブ化していく)ということを意識してきました。出会う度にフラッシュカード(単語カード)アプリ「Anki」に放り込んで、瞬間英作文で回してきました。
今から思うと、チャンク(決まり文句)をアクティブ化する(使える)ようにトレーニングしてきたことになるなと。お陰で「英語で何と言ったらいいか分からない」が、最初の頃に比べてかなり減り、出てこない場合にも代替表現などでとりあえず対処可能になってきました。
【参考】スピーキングが上達する!アクティブ語彙(運用語彙)の増やし方
みなさんも何かを覚えるとき、カードを使った経験があるでしょう?あれで繰り返し答えるのも、音韻ループを繰り返し回す方法になっているわけです。
そして、カードを作るときもそうですが、音韻ループ(音の記憶)で覚えるときの大事なポイントは「チャンク」。うまい情報のまとまりをつくり、言いやすくなる、繰り返しやすくなることが、記憶力アップの重要なコツになります。(P. 38)
洋画や海外ドラマはベストな選択肢か?
「TOEICや英検で勉強していても、ネイティブの生の英語を聞き取れるようにはならない」とよく言われます。これは確かに間違いないです。
「TOEICリスニング満点でも映画やドラマの聞き取りが難しい7つの原因」でもお伝えしたように、TOEICや英検のリスニングパートの英語は、ネイティブの生の自然な英語に比べると、はるかに聞き取りやすいからです。
ネイティブの手加減なしの英語が聞けるマテリアルを使ったトレーニングをしない限り、ネイティブの英語を聞き取れるようにはならないです。
とは言え、TOEICに数年浸り、英検に2年浸り、その後洋画やドラマに浸ってきた経験では、TOEIC本や英検の過去問を使った勉強が劣っているとも思えなくなってきたんですよね。
というのも、洋画や海外ドラマに出てくる英語は、言葉の省略が多く、文法が崩れていることも多く、また台詞は小洒落ていたり、面白くするために決まり文句をヒネっていたり、背景知識がないと理解できない台詞も多いんですよね。
【参考】「映画・海外ドラマを字幕なしで」への第一歩に最適な本
TOEIC・英検は「チャンク」の宝庫

一方、TOEICや英検に出てくる英語は、決まり文句の宝庫だなと。
なぜなら、もしテストが決まり文句ではなく、独特な表現ばかりで構成されていたら、受験者の英語力を正確に測るのが難しくなるからです。そういう意味では、TOEICや英検はどれだけ英語の決まり文句を知っているかを試すテストとも言えるかもしれません。
また、TOEIC公式問題集や英検の過去問に出てくる英語は、かなり丁寧なネイティブチェックが入っているはずなので安心感があるなと。
そんなわけで最近、英検準1級の過去問のリスニングパートを使ったトレーニングも再開しました。
英検のリスニングPart 1の会話に出てくる英語は、カバーしている範囲がTOEICよりも広く、Part 2の説明文はアカデミックな英語を身につけるのに最適&知的好奇心をそそられるんですよね。
また、洋画や海外ドラマは、字幕が日英ともに実際の台詞に忠実でない、映像のみで会話がない(無音の)シーンがある、反復トレーニングがしにくいといったデメリットがありますが、TOEIC本や英検の過去問は
● 空白の部分がほとんどない
● 音声が1トラック当たり1~2分→毎日一定量で勉強できる(→勉強計画を立てやすい→継続しやすい)
● 音声が短い→ディクテーション・シャドウイング・リピーティングなどの反復トレーニングがやりやすい
というメリットもあるなと。
英検準1級は取れたので、英検を受験するつもりはないのですが、英検の過去問を使った勉強は意外と投資対効果が高いのではないかと個人的には感じています。
【参考】TOEICでは身につきにくい、英検で獲得できる6つの英語力
もちろん、上述したように英検の過去問だけではネイティブの生の英語を聞き取れるようにはならないので、Netflix、「リスニング難度A+」「MJ and Adam Show」「森田勝之先生の映画・ドラマCD本」などのネイティブの生の英会話系マテリアルも並行しています。
目的別「決まり文句」の覚え方
英会話を学ぶ目的によって、優先すべき決まり文句は異なってくると考えています。そこで目的別に、決まり文句を身につける方法を考察してみました。
「オンライン英会話をやっている」

オンライン英会話を7年、2900回(1208時間)やってきたのですが、オンライン英会話はリアルの英会話と異なる部分も多いと感じています。
例えば、普通の英会話テキストには、「Why don't you join us for lunch?(一緒にお昼ご飯を食べない?)」みたいな鉄板フレーズが紹介されていたりしますが、オンライン英会話の講師とレッスン後にランチに行くことは基本的にないので(笑)、この決まり文句を使う可能性は低い→覚える優先順位は低いと言えるかと。
逆に、「I can't hear you clearly.(よく聞こえません)」「The connection seems to be unstable.(接続が不安定みたい)」などの決まり文句は、頻繁に使うことになる→覚える優先順位は高い。
このように、オンライン英会話にはオンライン英会話でよく使う決まり文句があるので、まずはそれを覚えていくことが効率的だと考えています。
僕は記事「オンライン英会話で僕が頻繁に使ってきた初心者用便利フレーズ200+」で紹介しているフレーズを、フラッシュカード(単語カード)アプリ「Anki」に登録し、瞬間英作文で徹底的に回してきました。
また、オンライン英会話でフリートークやニュース記事ディスカッションをやると、自分の趣味・興味について話す、自分の考え・意見を述べる機会は非常に多くなります。
なので、好き嫌いに関する表現や、同意・反対したりする表現も優先的に覚えていきたいところです。
詳しくは次の記事で説明しています。
【参考】オンライン英会話初心者のコツは自分を英語で説明できるようになること
「英語で仕事している or する予定」

英語で仕事をされている方、する予定の方は、やはりTOEICが効率的だと思います。
僕は英語を使う仕事をしたことはないのですが、TOEIC 950点を取ったことで、ビジネスでよく使われる決まり文句、英語における丁寧表現がそこそこ身についたと感じています。
TOEICで覚えた決まり文句は、洋画・海外ドラマやNHK WORLD TVなどで、ビジネスシーンの聞き取りに役立っています。
【参考】TOEIC初心者が確実に600点取れる6つの戦略と勉強法
【参考】TOEIC 900点が確実に獲れる!6つの戦略と勉強法
特にお勧めなのは、リスニングのPart 3・4の会話・トークを使っての暗唱です。暗唱すれば、ビジネスでよく使う決まり文句が身につき、リスニングとスピーキングを同時に伸ばすことができ、結果的にスコアも伸びるので一石三鳥になります。
【参考】TOEIC Part 3・4が聞き取れない→「暗唱」で道は開ける!
「日本を英語で説明したい」

日本の文化・言葉・慣習や日本食などを紹介していきたい人は、「日本を英語で紹介するための本5選&勉強のやり方」にあるような本を使って、長文なら暗唱、短文なら瞬間英作文で決まり文句を覚えていくのが効率的だと思います。
また、「NHK WORLD TV」には、日本の文化・言葉・慣習や日本食を紹介する番組がたくさんあります。
僕はNHK WORLDを観ていて、「あ、この決まり文句はよく耳にするな」「このフレーズは使える」と感じたものは、上述したようにAnki瞬間英作文で覚えるようにしています。
ただ、NHK WORLDは、洋画や海外ドラマよりはやさしいとは言え、初心者には難しいと思います。僕もTOEIC 600点頃は部分的にしか聞き取れませんでした。内容をだいたい理解できて楽しめるようになったのは、TOEIC 900点&英検準1級を取ってからです。
【参考】「NHK WORLD TV」が中級者の多聴に最適な5つの理由
ことわざを英語で覚えておくと便利
2013年に英会話を始めた頃から、日本語でよく使うことわざや慣用表現を英語で言えるように、Anki瞬間英作文でトレーニングしてきました。
(言うは易く行うは難し)
Kill two birds with one stone.
(一石二鳥)
When in Rome, do as the Romans do.
(郷に入れば郷に従え)
言わば、ことわざや慣用表現も一種の決まり文句だなと。1フレーズだけで多くを伝えることができるので、ことわざや慣用表現の英語版を覚えておくとすごく重宝します。

- 同じカテゴリーの記事
-
- 脳科学者「見るよりも聞いたほうが記憶に残りやすいよ」
- 言語学者「リスニングは7~9割分かるものをやらないと効果は薄いよ」
- 言語学者「勉強スケジュールは分散したほうが効果的やで」分散学習
- 英単語が覚えられない→脳科学者「思い出す&使うと記憶は強化される」検索練習
- 科学的に正しい・間違っている英語勉強法は存在するのか?
- 英会話上達のコツは?言語学者「英会話の約7割を占める◯◯を覚えよう」
- 英語の勉強を続ける秘訣は「自分が楽しめる練習」を見つけること
- ネイティブ並みにペラペラ→そもそもネイティブは1日何分英語を話すのか?
- 言語学者が勧める語彙力を増やすために大切な3つのこと
- [英語] スピーキングを伸ばしたい→言語学者「リスニング重視がお勧め」
- 準ネイティブレベルへの到達には数千万語の多聴多読が必要かも