教材をコロコロ変えてる→科学研究「同じものを繰り返すほうが効果的だよ」

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対象:TOEIC・英検で伸び悩んでいる/テキストをコロコロ変えている/多聴多読で伸び悩んでいる
推奨:全レベル
読了:約6分(4500字)
公開:2022-06/18
更新:2022-08/11 タイトル変更、一部追記
関連:検索練習 / 分散学習 / 反復練習 - 反復回数 - 同じ教材を繰り返す - 多聴多読の注意点 - TOEICスコアが伸びないパターン / 「速さ」よりも「正確さ」

 

教材をコロコロ変えていると上達しにくい


ある程度英語を勉強されている方は、英語学習初期や、新しい分野の勉強・トレーニングをするときは、同じテキストで繰り返し練習したほうが効率がいいというのは経験的に知っていると思うんですよ。

最近読んだ脳研究者の池谷裕二さんの著書に、同じテキストを使い続けたほうがいい理由について書かれてありました。


復習をすると、脳の中ではなにが起きているのでしょうか?

海馬は、繰り返し刺激することで、活性化し、情報をより強く脳に記憶しようとする性質があります。この現象を「LTP」(長期増強=long-term potentiation) と呼びます。(P. 40)

書店にはすぐれたテキストがあふれています。アプリや動画なんかもあるかもしれません。そのなかから自分に合うものを選ぶだけでも大仕事。なかには、いろいろなものを試したり、コロコロと変えたりしている人も、いるでしょう。

でも、同じ内容でもテキストを変えて復習すると、海馬が「新しい情報」だと認識し、復習にはならなくなってしまうのです。これでは、記憶を強化するLTPを起こすチャンスを自ら逃してしまっているのと同じです。

それにテキストを変えるたびに、その使い方や内容を理解し直さなくてはなりません。……最初にコレと決めたテキストで繰り返し勉強し、効果の高い復習をすることのほうが、ずっと大切なのです。(P. 44)


東大教授が教える!
デキる大人の勉強脳の作り方

池谷裕二
日本図書センター
2021-01/20

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耳が痛い(笑)。過去の自分に教えてやりたい。でもタイムマシンに乗って教えに言っても、当時の僕は「余計なお世話」って言いそう。


子供に「同じ物語を3回」vs「3つの違う物語」

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以前、母語に関する研究で興味深いものを見つけたんですよ。

Daily Mail Onlineの記事「Why children learn faster with only a few books: Repeatedly reading the same book to toddlers helps them learn new words」より。

サセックス大学の研究で、「同じ物語を、3回繰り返し」読み聞かせた子供たちのほうが、「3つの違う物語」を読み聞かせた子供たちよりも、より多くの新しい単語を覚えていたそうです。

この理由について、子供の言葉の学び方について研究されている心理学者のJessica Horst教授は「the benefits of familiarity(慣れ親しむことの利点)」を指摘されています。


この研究は、イギリスのサセックス大学のJessica Host博士の研究チームによるものだ。博士らは、3歳児に対象に週に3回の読み聞かせでどれだけ多くの単語を覚えられるか実験を行った。

……幼児期の子どもには、同じ本の読み聞かせ、すなわち繰り返し学習が非常に重要であると結論付けたそうだ。

博士はたくさんの種類の本を読み聞かせることが悪いと言っているわけではないという。しかし、「子どもの知育のために、焦ってたくさんの本を買う必要はないのです。繰り返し同じ本を読み聞かせることも子どもにとってとても重要なのです」と話している。

これ以外にも、1日30分の読み聞かせを5カ月間続けると、子どもの読書年齢を2年も引き上げることができると指摘しているそうだ。

【出典】繰り返し同じ本を読み聞かせると子どもの学習力アップが期待できるという研究結果


第二言語ではなく母語、大人ではなく子供の研究ではありますが、大人の英語学習にも当てはまると個人的には感じています。


リスニングも同じものを聴いたほうが伸びる

リスニングは聴いても20%しかわからないような教材を聞くより、80%以上わかる教材を何度も聞いたほうが効果があります

インプットを理解することが言語習得のカギですから、わからないものを聞いても効果は低いのです。

同じものを何度も聞くと飽きてしまうかもしれませんが、すでにある程度内容がわかっていたほうが、理解につながるので、言語習得を促進することは言うまでもありません。(P. 165)



フロリダ州立大学の同僚で、ESL(英語が母国語ではない学生)を教えていた教授から、……英語力を伸ばそうとして、英語で制作された字幕付きの映画を一本選び、繰り返し観た学生もいるという。

最初は字幕を隠してセリフを理解しようと努め、それから字幕を見て理解が正確であったかを確かめた

同じ会話を繰り返し聴くことで、毎回違う映画を大量に観た場合より、はるかに速く英語の聞き取り能力が向上したという。

ここでは、学生たちがただ同じことを繰り返していたのではない点に注目して欲しい。彼らは毎回自分が何を間違えたのかに注意を払い、それを直していたのである。これは目的のある練習だ。

やみくもに同じことを何度も繰り返すのではまったく意味がない。反復練習の目的は、自らの弱い部分を見つけ、それを集中的に強くしていくこと…… (P. 212-213)




2022年現在、僕は1日当たり多聴が1時間で、精聴は2時間半くらいです。

リスニングの練習で最も大事なことは、聞き取れないものを聞き取れるようにすることだと気づいたので。精聴に多めに時間を割いています。

上級者に到達するためには多聴多読は遅かれ早かれ必須ですが、初級者は同じテキストを繰り返したほうが時間対効果は高そうですね。

【参考】TOEIC リーディングで時間が足りない!対策と勉強法 Part 5・6編 / Part 7編



TOEICや英検も同じテキストを繰り返そう

言語学者も勧める「再読」

応用言語学者の中田達也教授が、TOEICや英検のリーディングパートのトレーニングについて著書で、多読以外に「繰り返し読むこと」も勧めておられました。


Q8 TOEICや英検などの読解問題が制限時間内に終わりません。どうすれば英語が早く読めるようになりますか?

……その(多読の)ほかに、テキストをもう一度読み直す「再読」(repeated reading) があります。再読すると、読むのに苦労した単語や構文が簡単に理解できるようになっています (Gorsuch & Taguchi, 2010) 。

……単語や文法知識が自動化すると、意味解釈に向けていた注意力を、読解ストラテジーに向けられるようなります (Horiba, 2000)。(P. 102~103)

英語学習の科学
中田 達也・鈴木 祐一・他9名
研究社
2022-04/25

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精読した(辞書や文法書で調べた)上で繰り返し読むと、単語や文法知識が自動化するので、徐々に「文書の主旨」「文書の流れ」「設問で問われていること」などに意識を向けられるようになるというわけです。


TOEIC本を20日間繰り返した結果

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僕は飽き性なほうだと思います。SNSとかを見ていると、まったく同じテキストを数年続けている方とか見かけますが、僕には無理だなと。そもそも人間は飽き性らしいです。

そんな僕が2010年の夏から、真剣にTOEICの勉強を始めました。

で、数名のTOEIC満点ホルダーの方のブログを読み漁っていたときに、Tommyさんがリーディングパートの英文を繰り返し読むというのをされていました。

そこで、公式問題集のリーディングパートのすべての英文を精読した(辞書・文法書で調べた)上で、20日間毎日繰り返し読むというトレーニングをやり始めたんですよ。

並行して、これまたTommyさんのアドバイスであるPart 5・6で合計1000問解く(もちろん1冊1冊を何度も反復)という荒行も開始。

そこからリーディングのスコアが上がり始め、2010年07月は300点だったのが、翌年2011年の05月には410点になりました。さらに翌年2012年には10月には465点に到達しました。

【参考】TOEIC リーディング465点が獲れたPart 7勉強法「通読トレーニング」


リスニングパートも基本的には反復です。
公式問題集を解いた後、ディクテーションで自分が聞き取れない原因を把握した上で、徹底的にオーバーラッピングとシャドウイングで反復しました。

結果、2010年320点→2012年10月445点に到達し、リーディングと合わせて900点を超えました

【参考】TOEIC 900点が確実に獲れる!6つの戦略と勉強法


英検も過去問を繰り返そう

英検準1級過去問2022

英検のリスニングパート読解パートも基本的には同じやり方でやり、2016年に準1級が取れました

ただ、今振り返ると、英検のときは「急いで数をこなすこと」を意識し過ぎたために、反復日数を10日程度にしてしまった結果、シャドウイングのトレーニングの質が低くなっていたなと反省しています。

スラスラと言えない箇所を残してしまうと、リスニング力は上がりにくいんですよね。なぜならリスニングで聞き取れない音 ≒ 正確に発音できていない音だからです。

【関連】英検準1級に合格したので勉強したことをまとめてみた

そんなわけで、TOEICと英検の勉強を通して、反復トレーニングの重要性を経験的に確信したんですよね。


多解きは900点超えてから

また、TOEICにおいては、多解き(1回解いて復習して次の問題集に進む)を推奨する方もおられますが、個人的に「多解き中心で900点超えた」という方にほとんど出会ってないんですよね。良くても700~800点くらいで伸び悩むイメージ。

で、その数少ない多解きで伸びた人も「元々受験で英語を勉強していてそれなりに英語力がある人」だったりします。

900点を超えてから、満点をめざすのであれば「1万問ノック」をしたほうがいいと思いますが、900点までは「精聴精読×反復練習」のほうが時間対効果は高いのではないかと。



多聴多読は中~上級者向けかも


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TOEICや英検の勉強法で、多聴多読を勧める方もおられます。

多聴多読のやり方が間違っていなければ英語力は確実に上がっていきますし、実際にそれで上達を感じているのであればまったく問題ないと思います。

ですが、もし伸び悩みを感じていて、「早急に700~800点が必要」「英検準1級に合格しないといけない」のであれば、TOEIC対策本や英検の過去問に特化したほうが効率的だと考えています。

【参考】英語やTOEICで上達を感じない?科学研究「初心者はジャンルを絞って勉強しよう」
【参考】TOEICスコアが伸びない人によくある9パターンとその対策


というのも、TOEICや英検にはそれぞれ、よく出る決まり文句(チャンク)、よく出る設問、よく出る文書パターン、問題を解くヒントになるキーワード(TOEIC英検読解)があるのですが、きちんと精読した上で繰り返し読み終えた文書が増える毎に、それらが自動的に身についてくるんですね。

なので現在の最優先事項が、TOEIC 900点や英検準1級なのであれば、1冊1冊を丁寧にやり込んでいくほうが効率的だと考えています。詳しいやり方次の記事をぜひ!

【参考】TOEIC リーディング465点が獲れたPart 7勉強法「通読トレーニング」
【参考】英検準1級 読解で8~9割取るための対策と勉強法




 
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