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公開:2022-06/22
更新:2022-07/04 一部加筆・修正
関連:検索練習 / 分散学習 / 反復練習 - 反復回数 - 同じテキストを繰り返す - TOEICスコアが伸びないパターン / 「速さ」よりも「正確さ」
反復練習の最適な回数は?
トランペット奏者の研究
シャドウイングや音読で、「反復練習が大事なのは分かるけど、いったい何回繰り返したらいいんだろう?」と思ったことはないですか?実は最近、「才能を伸ばすシンプルな本」を読み返していたら、この積年の疑問の解消につながりそうな興味深い研究が目に止まりました。
(秘訣37)3:意識の集中
トランペット奏者が、短くて困難なフレーズの練習をおこなおうとしている。
A案 ひとつのフレーズを20回演奏する。
B案 ひとつのフレーズを5回連続で演奏し、ミスをしたら最初からやり直す。
結論 B案がよりより選択肢である。練習により意識を集中できるからだ。
ひとつのフレーズを20回連続で演奏するのは退屈で、終わるまで単に繰り返しの数を数えているにすぎなくなる。
しかし、5回連続で演奏しても、もしミスをしたら最初からやり直すとなると、かなり気合いが入る。(P. 119)
数日前にこのことを知ってから、シャドウイングと瞬間英作文と洋楽を歌う練習で実践し始めました。
間違えたり、言い淀んだり、言いにくいと感じた音(発音や音変化)や英文に出くわしたら、「5回連続でリピーティングして、ミスしたら最初からやり直す」ようにしたのですが、確かに集中力が違うなと。
「失敗したらやり直し」というちょっとした緊張感がゲームぽいんですよね。Gamificationや。
ダラダラやってしまいがちなシャドウイング
シャドウイングや音読や瞬間英作文って、毎日やっているとなんかダラダラやってしまいません?そんなときはクラリネット奏者のクラリサの話がいいかもしれません。
秘訣13 スイートスポットを見つける
スイートスポットの意義を理解するために、13歳のクラリネット奏者クラリサの例について考えてみよう。彼女はオーストラリアの音楽心理学者ゲーリー・マクファーソンとジェームズ・レンウィックの研究対象になった。
クラリサは音感も練習態度も意欲もすべて普通だった。しかしある朝、すばらしいことが起こる。1か月分の練習を5分でなしとげたのだ。
それはこういうことだ。クラリサはいくつかの音符を奏でて、ミスをすると即座に演奏をやめた。楽譜をじっくり見て音符を調べ、ミスをした音符を口ずさみながら、音を出さずに素早くキーを指でたどった。
そして演奏を再開し、さらに少し先に進むとまたミスをし、そこでまた演奏をやめてミスを修正した。このやり方で彼女はその曲をたちどころにマスターしたのである。
マクファーソンとレンウィックはこう結論づけた。
「クラリサはそれまで、「どんなミスも無視して最後まで曲を弾き通すのが常だった。……
10年以上前に英語をやり直し始めたとき、まさに「どんなミスも無視して最後までシャドウイング・音読をし通すのが常だった」なと。クラリネット奏者クラリサ状態や。
……しかし、そのやり方ならまる1か月かかることを、彼女はたった5分間で学んだ」
なぜか。
その5分間におけるクラリサの脳の神経回路を想像してみよう。彼女はミスをするたびに、
①それを認識し、
②それを修正した。
そうすることで脳の中に正しい神経回路をつくったのだ。つまり、ミスをしたフレーズを繰り返し練習するたびに、脳の神経回路を強化していたことになる。
彼女は単に練習していたのではなく、脳の中に正しい神経回路をつくり上げていたのだ。これがスイートスポットである。……能力の限界まで背伸びする方法を見つけるということだ。(P. 63-65)
【出典】才能を伸ばすシンプルな本
2020年頃に検索(思い出す)練習の効果について学んでから、ミスをしたら音声を止めてリピーティング(思い出して言う)するようになりましたが、それでもミスしたものにおける反復回数は特に意識してなかったなと。2~3回やる程度。
【参考】シャドウイングで伸びないと感じる人に試して欲しい6つの処方箋
聞き取れない音 ≒ 発話(音読)回数が少ない音
言語学に関する本を読んでいると、どうやら自分が正確に聞き取れない音(発音・音変化)は、自分がまだ苦手でスラスラと言えない(=自分で再現できない)音のようです。音読やシャドウイングにはおそらく数千時間は注いできたと思いますが、自分の経験的にも確かにそうだなと思うんですよね。
逆に、正確に聞き取れる音(発音や音変化)は、基本的に自分でもスラスラと言える。その理由は、過去に何度も何度も発話(音読)して練習してきたから。
つまり、
≒ スラスラと言えない音
≒ 発話(音読)した反復回数が少ない
→ スラスラと言える音よりも、反復回数を大幅に増やす必要がある
ことが分かります。
裏を返せば、すでに余裕でスラスラと言えるものに関しては、少なくとも”音的には”もう練習する必要はなさそうだなと。
ブログのあちこちで触れていますが、練習の目的は「できないことをできるようにする」ことなんですよね。
(フィギュア)スケート選手を対象とした研究で、一流選手ではない人たちは自分がすでに「できる」ジャンプに多くの時間をつぎ込んでいることがわかった。
一方、トップレベルの選手は自分が「できない」ジャンプにより多くの時間を費やしていた。(P. 260~261)
そんなわけで、「途中で失敗したら1回目から再度カウントし直し、5回連続でできたらクリア」というのは、自分的に非常に良い指標になりました。
反復「日数」も重要
分散学習
これもブログのあちこちで触れてますが、この記事がファーストコンタクトの方のために。
例えば今日シャドウイングや音読で、上記のように「5回連続チャレンジ」でトレーニングするじゃないですか。
翌日も同じことをします。
するとあら不思議、昨日は練習してできるようになったことが今日はできなくなっています。昨日探し当てた場所に今日もジャンプしてみるけどなぜかNOT FOUND。
残念ながら、苦手なものって1日練習したくらいでは習得できないんですよね。
じゃあ何日やるか?
そこで、ご登場いただくのが分散学習です。
一気に集中して勉強するのと、勉強時間を「分散」するのとでは、覚える量は同じでも、脳にとどまる時間がずっと長くなるのだ。(P. 97)
勉強時間を分散させるからといって、勉強時間は増えない。より多くの努力が必要になるわけでもない。にもかかわらず、覚えたことをより長く記憶にとどめておけるようになるのだ。(P. 98)
ある研究グループは、小学校3年生に足し算を教える時間を毎日1回設けることを10日間続けるほうが、毎日2回設けて5日間続けるよりもはるかに効率的だと実証した。
別のグループは、細胞、有糸分裂、染色体といった生物の定義を中学生が学ぶ場合、1回の授業で学ぶよりも、間隔をあけて複数回に分けて学んだほうが記憶に残りやすいことを実証した。(P. 109)
勉強とトレーニングの違い
ただ、分散学習に関する記述で、英語学習者が気をつけたほうがいいと思うのは、単語などの「勉強的な暗記」と、シャドウイングなどの「音を覚えるトレーニング」は区別したほうがいいなと。僕はこのブログで「トレーニング」という言葉をよく使うのですが、その理由は英語学習には「勉強的な側面」と、スポーツや楽器の習得のような「トレーニング的な側面」があると感じるからです。
そして単語の暗記などは”日数を空ける”のが有効ですが、シャドウイングのようなトレーニング的なものに関しては、スポーツや楽器同様に、しばらく毎日練習し続けたほうがいいと感じています。
で、何日やるのがいいのかについて、現時点で参考になるものは、21日間かなと。
毎日練習することのもうひとつの利点は、それが習慣になることである。
練習するという行為は、そのための時間をつくり、何かを上達させることだから、それ自体がスキルである。もっとも重要なスキルといってもいいだろう。
複数の調査で、新しい習慣が確立するには約3週間かかることが判明している。(P. 77)
【出典】才能を伸ばすシンプルな本
習慣化の話なので、練習日数とは異なるのですが、
毎日の練習は、たとえそれが5分間の短い練習でも、脳の成長を促進する。しかし、ときたま練習する程度だと脳は遅れを取り戻すことに終始する。だから、毎日少しずつでもいいから練習することに意義がある。(P. 76)
【出典】才能を伸ばすシンプルな本
ということを考えると、練習日数21日間というのは1つの目安にしていいのではないかと。
また、自分の経験では、5~10日くらい毎日連続で練習して、ある程度できるようになってから気づくことが意外とあるので、その気づいたことを定着させるために、現時点では20日間やるようにしています。「正正正正」が並ぶとうれしい。
ちなみに、30日間やるかどうかは悩みどころです。
10日間と20日間の差はけっこう大きいと感じてますが、20日間と30日間に劇的な差を感じないんですよね。投資日数対効果を考えると、自分的には同じものの反復日数は20日間でいいかなと。

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